ガンダムUCや進撃の巨人の音楽で知られる澤野弘之がデビュウ20周年の節目として本を出した。
自分は彼の音楽は6:4で肯定している。否定している要素は明確なのだが、この本を読むと、どうやら彼はそれを自覚的にやっているようだった。
自分が彼の何を肯定して、何を否定しているのか。
【肯定】
- テーマ曲がわかりやすく凝っている。
- 歌曲と器楽の両方をやっている。
【否定】
- 管弦楽をやっているが、テンポが1定でサビ前で大きくRitするなどクラシックほどの揺れが無い。
- 根本的な発想がポップスなので、管弦楽であろうとなかろうとホモフォニーから派生させて作っている。ポップスのベースと同じ感覚でコントラバスを使っているので、常時低音が鳴り続けている。ダイナミクスレンジが狭い。
- どの曲も曲調が同じ。キャッチなメロとコードと派手なリズム。とても聞きやすいが次に何が起こるかわからない、という予想外の展開が無い。
否定的な要素の方が多いが、自分は彼のMobile Armorという6分45秒ある管弦楽を耳コピしてピアノを弾いていたくらいなので、項目の多少は彼の評価の決め手とは関係が無い。
彼は最も強く影響を受けたのはチャゲアスで、管弦楽もジョン・ウイリアムスよりもハンス・ジマーのリズム重視の派手なシンセ混合の管弦楽を重視していると書いているので、自分が彼に対して否定的な評価は彼が自覚的に実行されている要素なので、お互いに同意の上という感じである。
彼のスタイルが確立したのはゼノブレイドクロスと書いてあったが、自分はまさにそれで彼への興味が失せた。
彼はテーマ曲を作るのが上手いが、全てがテーマ曲という感じで捨て曲がない。1曲ずつを丁寧に作るのは素晴らしい事だが、その結果として全てが同じような仕上がりになり、アニメやゲームのサントラ(劇伴)としてあまりに幅が狭い。彼の20曲を聞けば、彼の手札は3曲から5曲くらいだとわかる。自分にはそれが退屈だったが、だからこそ彼は売れたのだろう。ポップスを聞くような感覚、明快なメロとポップス的な構成でわかりやすいから。自分はポップスの価値が低いので、だから彼の根本的な所が合わない。彼は音楽を開始した動機がポップスだし、久石譲の劇伴に感動した事が書かれているが、自身を鼓舞する時に歌っていたのは仮面ライダーBlackの主題歌なので、劇伴音楽に魅了されながら歌曲を作り続ける理由を以下のように書いている。
結局のところ、視聴者が音楽に意識を向ける瞬間が作品の中で作られない限り、サウンドトラックのセールスに繋げることは難しいのだと思っている。自分はファミコン音楽(ゲーム音楽)から熱心に音楽を聞くようになったので、歌詞の無い器楽を聞くのも歌うのも普通の事だと認識している。しかし、大概の消費者は違う。
2025年にSpotifyで聞かれた日本の音楽ランキングに器楽は0曲で歌曲しかない現実からもわかるように、大概の消費者は、音楽的な要素はメロ、他は歌手の性別や年齢や顔や歌詞など、音楽とは無関係な人物と言葉を評価しているだけで、音楽は副次的な装飾品に過ぎない。
結局、彼ほどの売れっ子ですら、サントラ(劇伴)がポップスほどの吸引力を持てない敗北を認めてしまっている。だからこそ彼は歌曲も積極的に作る。
彼は様々な音楽家の実名を挙げて自身が受けた影響を正直に書いているが、劇伴なのに歌曲が多い事で有名な菅野よう子と自身を比較してた話が面白かった。
彼の進撃の巨人は10万枚も売れた。しかし、同時期の菅野よう子のマクロスFは25万枚も売れた。この数字から、もしかして澤野弘之じゃなく菅野よう子が進撃の巨人を担当してたら50万枚は行けたのではないか、とあまりに卑屈な自虐を書いていて自分は笑ってしまった。
自分は菅野よう子のファンで、澤野弘之と比較した場合は菅野よう子のほうが上だと評価しているが、そんな自分ですら、彼は彼女の次の世代を代表する劇伴音楽家であり今でも売れ続けている立派な作編曲家であると評価しているのに、本人は向上心はあるが故に卑屈になるらしい。マクロスFが売れた理由は、あれこそ登場人物が何かにつけて歌うミュージカル的な作品だからだ。歌曲な上に、彼自身が書いたように作品が音楽を聞くように誘導しているから売れたのだ。進撃の巨人はそういう作品じゃないから、歌曲と器楽という意味において売り上げに差があるのは当然である。
もっとも、菅野よう子はカウボーイビバップという器楽OPで世界的な人気を確立したのだが、あれは外れ値であって劇伴の基準にするのは間違いである。
他にも、彼は和声は勉強したが対位法は今でもよくわからない、など正直に書いてあって、真面目で誠実な人柄が伺える。彼は様々な音楽家の名前を挙げて、その中の1人として菅野よう子の名前も挙げているが、彼女も澤野弘之を見習い2000年くらいに連載していたエッセイ〈ポッカリした〉を出版してもらいたいものである。

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