〈剥かせて!竜ケ崎さん〉のボクシング


 爬虫類の肉体的性質を持つ美少女との恋愛を描く〈剥かせて!竜ケ崎さん〉だが、基本的には男に都合のよい性質を抽出しながら、要所では、人間が好まない爬虫類の性質や姿を見せる事で感情や自己認識だけではどうにもならない本性を描いているのが偉い。


 ただ、絵は丁寧だし基本的にうまいのだが、熊と戦闘する場面で気になった事がある。それが以下の場面。

 ボクシングをやっていた、という説明台詞に対してやっている右ストレートが順突きになっている。ボクシングは空手と違い右は逆突き、右の腕に対して左足を前に踏み込む。最初にこの場面を見た時は空手の順突きをしているのかと思ったが、台詞でボクシングと断定されているし、かつ、この場面の前のコマで、彼女の後ろを前、彼女の前が奥、という構図で彼女は左足を前に出して構えている。

 それなのに、いざ打っている姿は右腕と同じく右足が前に出ている。意味がわからない。

 格闘要素なんぞ微塵も作品の売りではないラヴコメだから仕方がないのかもしれないが、相手に踏み込み射程を延長する目的で順突きならわかるが、相手の突進に合わせてカウンタをして迎撃するパンチで、かつボクシングなのに逆突きにしない理由がわからない。

 先日、超人的な戦闘描写をするイオリスという漫画を読んでいたら、主役が拳銃の扱いに長けている、という描写がありながら、見せ場での構えで左手を右手の下に添えていて萎えて読むのをやめてしまった。

 これで構えてしまうと、右腕は前方の他に下方ベクトルが発生する。左腕は反対の上方ベクトルになるので、銃を発砲した時に、後方だけでなく上方にも激しく動いてしまう。だから、右手の前方に左手を添えて、右腕の前方ベクトルと、左腕の後方ベクトルで万力のように2方向で挟み安定させて上下のブレを無くすために、左手は右手の前に添える。

 写真素材なども、左手を右手の下に添えるという事をやりがち。だから、この漫画家は恐らく、現実のプロの写真や映像を参考にせず、素人の雰囲気写真や映像を資料にしたと思われる。

 泣く子も黙る天下の葬送のフリーレンは、洋弓なのに理由もなく矢を右につがえる描写がある。

 登場人物がその道のプロ、のように描かれる作品において、登場人物が属する分野の常識や歴史を学ばずに雰囲気の素材を資料にして思い込みで描かれている描写を見ると悲しくなる。

 〈剥かせて!竜ケ崎さん〉の場合、ちょいちょい爬虫類の習性が解説されるので、ある種の蘊蓄漫画にも属するが、逆に作者は爬虫類と美少女にしか興味がなく、等しくボクシングに向ける情熱はないのだな、残念でならない。