〈人間が対位法を学ぶべき理由〉生成AIの音楽に対位法が無い

 記事自体は面白かった。今の生成AIがどこまでやれるのかを把握する遊びとして良かった。しかし、気になった事がある。それは、対位法を用いている音楽が1曲も無い。

対位法(ポリフォニー)とは

 対位法とは、2個以上の旋律(メロディ)を同時平行で演奏させる作曲の音楽理論である。

 自分がポップスを退屈で聞かない理由は対位法が希薄だから。ポップスはホモフォニーと呼ばれる、旋律が1個に対して単音または和音で伴奏がある、主役が1人で、残るは背景。イントロやアウトロや間奏で歌じゃなく楽器が主役の時間があるが、その時に歌は休んでいる。これは、ただ旋律を担う担当が置換されただけで同時平行をしていないので対位法ではない。

 対位法とは、2人以上の登場人物がいて、誰が主役かわからない2人以上の価値が平等の会話で成り立っている。

 作品の優劣を示す指標ではないが、難易度は明らかに対位法の方が高い。何故ならば、常に2つ以上の関係を計算して作らなければならないし、消費者も2つ以上の事を追いかけて把握しなければならない。

 言うなれば、ホモフォニーは1人の話を聞いていれば良いが、対位法は2人以上が同時に自分に話しかけてくる。話題は同じだが、賛成派と反対派の異なる意見を同時に聞いているようなもの。だから非常に頭を使う。

目をキョロキョロさせるのはたやすいが、耳をキョロキョロさせるのは、専門家でも相当にむずかしいからである。**音楽の基礎/芥川也寸志/193p**

 生成AIに話を戻す。今回の元記事で示されている生成AIの結果には、がっかりと安堵の両方であった。生成AIの出力はプロンプトに依存するので、プロンプトの全てを見ないと性能の評価を出来ないが、複数の楽器を指定している曲ですら、楽器Aの旋律1に対する、楽器Bの旋律2という曲が1個も無かった。

 これはプロンプトに限らず、生成AIが教材にしている音楽の種類にも原因があるだろう。結局、生成AIが即席で作れる、求められているのは、歌とか器楽とか無関係で、単独の主旋律と伴奏だけのホモフォニーだけ、という事。

 逆に言うと、対位法を出来ないのだから、人間は対位法を勉強して出来るようになると、生成AIには出来ない隙間を縫うことが出来る。